みんなが既に知っていることを記述可能にする
良いアプリを作りたい、良い本屋を作りたい、良い文章を書きたい、と常々願ってはいて。 コードを書いたり、文章を書いたりはしているんだが、なかなか良いものが作れない。 おれだけではなく、すべての制作の人の願いであり悩みだとおもう。
もう少し踏み込むと制作にとって「良いもの」って、先日楽しさ基準で書いてたような
別々のものに見えていたものが、実は同じ根っこを持っていたと気づくこと。あるいは、まったく違うふたつが組み合わさって、必然の形を見つけること。 この「新しい抽象」を生み出すこと。これが楽しい。
今より確からしい仮説、新しい抽象なんだろう。 で、それは人類で初めて月に行くためのスーパーテクノロジー理論を作り出す、ことだけではなくて。 もっと誰でも知ってるような、何なら森の中でウホウホやってた時代からの人間一般(動物、生物、死にたくない欲求)を一つの素材として、現代の数学や物理学で記述可能な設計を作り実装として解くならば、こんな解き方があると提案するような。
それ知ってた、を記述する。
共有可能な形として数学ルールで顕在化する。
「僕たちは微分方程式を解く。 猛獣に追いかけられていた時と同じ思考様式で」
数学や物理学なんて知るよしもない、ウホウホの頃からその体と欲求が知らずに使ってたことを、数学で解き直す。 あるいはその記述可能性の仕組みを作ること。
物事を解明するとき、 対象をみたらわかるというものではないのです。 分かる仕組みを開発せねばならない。
同じように、「良いものとはなにか」を無意識に知ってることから既存の論理体系として取り出すこと、もしくは その無意識に使ってるものを、既存の論理体系を構成する言葉群を使って、新しい論理体系として取り出すように作りだせないだろうか?
まずは記述の粒度
プリミティブさ。言語自体の発明。言語っつーか表現したいことをいくつかのレイヤーに分けましょうのアイデア。例えばアルファベット。 文字表現
- アルファベット 26文字 - 英単語 何個あんの? - 文法 - 文章表現、コンテキストの生成 - 具体的な制作物(偉大な小説、読書感想文、ブログ記事など)
すげえ柔軟。26文字から生まれる無限の表現。
アルファベットの厳密さは、その場のひらめきで行われたどんな発明より、ずっと創造性に貢献している。標準的な英語の26の文字によって、英語圏では1600万種類の本が出されている。単語や言語はもちろん進化し続けるだろうが、その進化は受けつがれ共有された基本原則に基づいている。(短期的ではあれ)不変な文字、綴り、文法が創造的なアイデアを可能にしているのだ
あるいは数字表現 (この辺の素人なので、例として適切かは微妙。数学物理学化学etcでまた違うんだろう。)
- 数字 - n進数 / 位取り記数法 - 演算・数式(関係性のルール, 例:+、−、×、÷、=、<、>等) - 方程式・数理モデル(微分方程式、運動方程式などによる世界の記述、コンテキストの再現) - 具体的な実装・計算(月に行くロケットの設計、日々のプログラミングなど)
補足、「位取り」って n進数の場所が一つ左にいくと桁変わるやつ。
この発明が歴史的に見て一つの知的勝利であると言えるのは、有史上でこのアイディアが生まれた回数が比較的少なく、それが繰り返し発明された時点の間の隔たりが莫大だからである。位取り記数法の発見は、今日の我々には分かりきったことの発見のように思われるが、長い年月の間それは、もし発見されれば役に立ったはずで理論的には確かに発見が可能だったのに、実際には発見されないままだった。なぜかはよく分からないが、この発見は、どこかの思考家がふと思いつくたびに発見の一歩手前にあ ったが、世界はその後何世紀も位取り記数法を未発見のまま、算盤さえなしに過ごすことができたのである。この二つの密接な関係のある発見がなされると、商人と職人の仕事は以前よりずっと容易になった。
普段は「日々のプログラミング」や「ブログ記事」という一番の末端で手を動かしながら、あわよくば同じレイヤーにある「ロケットの設計」や「偉大な小説」みたいな立派な成果物を作りたいな、なんて考えている。 なんだが、その成果物の規模を競うのをすっ飛ばして、もっと基底側にある「方程式」や「文章表現・コンテキストの生成」という記述のルールそのものを、自分の手でカジュアルに追加するチャレンジをしてもいいんじゃないかとも思っている。
もちろんそれは自分の制作物の範囲であり、人類に向けた一般解として提出するような大層なものにはならないのだけれど。
何がやりたいかっていうと、俺は過去の歴史上のいろんな発見や発明と同じ次元のことがやりたいといつも思う。 電球を発明したエジソンや、地動説を公言したガリレオと、同じ気持ちでいたいんだ。 そもそも、その次元に行ける人間ではないだろう。 でも、そういう発想をしていきたいし、そういうことを考えていたい。 ニュートンのように、なんでリンゴは落ちるんだとか、ガリレオのように天体を調べたいから望遠鏡を工夫して開発する。ケプラーのように誰も知らなかったことを見つけたいと。
大掛かりな理論体系をゼロから打ち立てるわけではない。けれど、目の前の制作現場で「これだ」という正解に辿り着くために、その場限りの新しい論理体系を都度立ち上げていることとか。例えば、音系エンジニアの仕事。
曖昧な要望を試行錯誤できる形に変換する
扱ってる「音」ってのが言葉とかプログラミングに比べて既に曖昧なんだけど。
エンジニアとは、機材に強い人、耳のいい人、というだけではないのだろう。むしろ、曖昧な言葉の中にある芯を見つけ、それを音にして返せる人でもある。色のついた言葉を受け取り、かたちのない注文を受け取り、それを実際に鳴る現実へ変えていく。言葉を音にする。比喩を現実にする。そう考えると、録音スタジオという場所は、少し変わった翻訳所のようにも思えてくる。辞書に載らない言葉が飛び交い、正解のないやりとりが続き、それでも最後には、みんなが「これだ」と思う音に辿り着く。
この録音物の制作過程でエンジニアがこなしていることって、一時的な「文章表現、コンテキストの生成 / 方程式・数理モデル」レイヤーの追加/書き換えなんじゃないだろうか。 自分が代わりに演奏するわけではないし、新しい録音機材を発明することでもない。 既存の道具があり、歌や演奏という具象がある中で、「これだ」に辿り着くための共有ルールが足りない。 だから音系エンジニアは、「これだ」にみんなで近づくための試行錯誤を可能にする、その現場固有の数理モデルを作り出す。 アウトプットとしては音デバイスへの操作という数理なのだろうが、インプットとしては曖昧な言葉を発する音楽家の曖昧な表情だったり。
それは「機材に強い、耳のいい人」という、末端の実装や機材スペックだけの話ではない。 基底にある道具の扱いから末端の演奏までを広く理解した上で、チームの制作プロセスが試行錯誤するために足りない「表現・方程式」のレイヤーを適切に書き換えられる能力なんだと思う。
おれのアプリ開発に近いとこだと
「はまる」とか「Later wow」とか
制作サイドから見れば
「ああ、それははまっている」 という風に言いますね。 それは分析できないものに対して使っています。 言ってしまえば、デザインというのは「はまる」ことを探すことだと思います。
この「おお、ハマった」という感覚。さっきの音系エンジニアの話だと 「みんなが「これだ」と思う音に辿り着く。」 と同じやつ。
分析ができないってことは、それを作るためのセオリーやベスプラがない、だから既存のコミュニケーションの「文章表現/コンテキスト」だと足りない。 故に今回のプロジェクトでハメにいくために新しく作る必要がある。
そうやって作られたものをユーザ側から見ると(使うと)
何かあたりまえのことをしていて、それが立ち現れてきたときに、「あれ?」「!」となるのがいい。 もちろん本当にそのものが溶け込んでしまっているわけだから、その存在すら気づかずに通り過ぎてもいい。 意識の中心に置かれるものは、 気づかれることを目的にしているわけではない。 - 略 - 見たときにすぐにその刺激教を受けてうなずくデザインからすれば、この行為に溶けるデザインは、 やや遅れて 「あ~~!」ということになる。 刺激をつくり出すデザインを仮に「First Wow!」 というとして、遅れて気づく方のことを「Later Wow!」といっている。
となる。 ずっと前から体は使い方を知っている故に意識に上らない。 だがその道具は新しい故に、同じコンテキストで別の道具を使った時に「あれ、以前使ったあの道具、すげえ使いやすかったんだな」と後で気づく。
アプリを実装するときに、タップやドラッグそのものを拡張する必要はないが、今作ってるものを「ハマる」方向に進めるためであれば、タップやドラッグの一般的な意味を別の意味で書き換えることは、チャレンジすべし。 既存のベスプラという枠組みのなかで、末端の実装だけをジタバタこねくり回すことに慣れすぎて、構造そのものを書き換えることにビビりすぎてた気がする。
みんなが既に知ってる「ああ、それね」を顕在化したものを作り出す。 まだ名前のついていない快適さを記述可能な形にする、ないしそれを生み出すために試行錯誤可能なレイヤーを作り出す。うまく解けたときほど、それは空気のように誰にも気づかれないのだけれど。
参考書籍
- 科学にすがるな! : 宇宙と死をめぐる特別授業 佐藤文隆/著 艸場よしみ/著 / 岩波書店
- テクニウム = TECHNIUM : テクノロジーはどこへ向かうのか? Kelly,Kevin,1952- 服部,桂,1951- / みすず書房
- 発明 : アイディアをいかに育てるか Wiener,Norbert,1894-1964 鎮目,恭夫,1925-2011 / みすず書房
- 逆行 尾原史和/著 / ミシマ社
- 「良い音」の秘密 録音エンジニアの証言で紐解く、音楽を伝える技術 渋谷 ゆう子 / 技術評論社
- デザインの生態学 深澤直人/著 佐々木正人/著 後藤武/著 / 東京書籍
- デザインの輪郭 深澤直人/著 / TOTO