神仏から鬼までメロさせるおっさん

『陰陽師 醍醐ノ巻』夢枕 獏 のブックレビュー

おれ

夢枕獏の代表作「陰陽師」。なんとシリーズ40周年だそうです。そんな続いてんの??おれ生まれる前からあったんか。。 当シリーズの場面は平安、鬼たちが夜な夜な悪事を働く京の都。陰陽師(国家公務員除霊師)の安倍晴明と、笛の達人の源博雅コンビが活躍する、鬼退治(時に鬼助け)ストーリー。

晴明は公務員のくせにちゃらんぽらんに生きてる最強の陰陽師。 博雅は真面目に宮仕えして消耗してる人の良い笛の達人。 全話短編の1話完結。しかも入りは毎回お決まりのパターン。 夜、晴明の家の縁側でサシ飲みしながら「そういえば昼間、こういう依頼があってな、よければ一緒に行かぬか」「うむ」「うむ、行こう」とだべり、そのまま鬼退治へ向かう。 縁側でだべる => 鬼退治へ。信頼と実績の様式美。ちな縁側で飲みながら眺める四季折々の庭の描写もエモくて素敵なの。おれもその飲み会に混じりたい。

で、今回は博雅メインの話。 鬼すらメロメロにしてしまうおっさん博雅の魅力がギュッと詰まった短編「笛吹き童子」。 本書の1話目に収録。

博雅、人生初めての嫉妬

ある日、めっちゃ笛の上手な童子が見つかる。 お偉いさん方が「せや、博雅と勝負させてみよか」の野暮な提案をしてくる。博雅、人がいいから断れない。 さらに勝負前に童子の笛を聴いてしまう。博雅、気が小さいからめっちゃ凹む。

「おれは、初めて、他人の才というものに嫉妬した・・・・・・」 「もうだめだ。おれは、あいつには勝てぬ。あれは、自然のものだ。空や地や、草や木や花、そういうものと同じじゃ。 天から音をもらって、自らの身体を通して、それを放っているのだ。そういうものに、勝てるわけはない。助けてくれ、晴明。」
陰陽師 醍醐ノ巻 / 夢枕 獏

ボッコボコに凹んでる友達の博雅に助けを求められても、晴明(真相知ってる)はニヤニヤしながら「ええやん、わしも勝負見に行くからやったれや」とか言う。 意地悪系悪者キャラの蘆屋道満(真相知ってる)も「聞いた聞いた、面白そうじゃんおれも見に行くわ、やったらええやん」とか言う。 道満は世を恨む性悪のいじわるじーさんなのに、博雅のことだけは大好きなのも面白い。

凄腕陰陽師どもが音楽家の苦悩も知らずにヘラヘラしてるもんだから、達人音楽勢の琵琶奏者、蝉丸(盲目)に苦悩を吐露してみたりする。音楽仲間なら何か良き助言をくれるかもと。

「教えて下さい。蝉丸殿。眼が見えぬと、常人に見えぬものが見えるのでしょうか。耳が聴こえぬと、常人よりも天の音を聴きとることができるのでしょうか。それなら、わたしは、この眼をつぶしてしまいたい。それなら、わたしは、この耳を切りとってしまいたい......」
陰陽師 醍醐ノ巻 / 夢枕 獏

蝉丸にも目ぼしい助言は貰えず。人間の友達が誰も助けてくれないから拗ねてしまって、鬼に笛を返しに行く。(博雅の持ってる笛は「葉二」という鬼からもらった伝説の笛なのだ)

博「どーせ負けるから今のうちにこの笛返しとくわ」 鬼「まあ勝負してこいや、おれも見に行くから。負けたらそんときに食ってやるわ」(この鬼も真相知ってる!) 博「どーせ負けるし、今ここで食ってくれや」 鬼「情けねえなw卑屈か。いいから勝負してこいつってんだろ」

「どいつもこいつも、おれに恥をかかせたいんか(泣)」つってしぶしぶ勝負の場に臨む。

いざ勝負!

当日、宮中にて。晴明や道満や鬼をはじめ実力者の見守る中、童子との笛勝負が始まる。 先攻は童子。それを聴きながら

博雅は、心の中で、賛嘆の声を洩らした。こんなに美しい音に、自分がかなうわけはない――そう思った。 凄い。本当に凄い音だ。
陰陽師 醍醐ノ巻 / 夢枕 獏

やっぱ超うめえ、勝てるわけねえ、でも帝も見てるしおれも吹かなきゃ、しょうがない、負けに行こう。が、いつの間にか童子とのデュオになり、明かされる秘密。 達人の博雅を絶望させるほどの凄い音とは。超いいやつの博雅に嫉妬の感情を植え付けるほどの演奏力を持つ童子の正体とは。 続きは本書で、お楽しみください。 この明かされる秘密において博雅の達人さとメロさが炸裂する。 (ヒント:真相知ってる博雅Fansが、博雅の負け戦を楽しみにしてるのは何故か)

秘密を知った後に二回三回と読み直すとこっちまでニヤニヤしちゃう。 誰よりも上手く笛を吹きよく聴ける非凡な手と耳を持ちながらも誠実さゆえにその秘密に気づけない博雅と、凡庸な手と目しか持たないのに有り余る傲慢さを持つおれたち読者のこの差はなんだと反省しながらも。「ああ、博雅fansが博雅の悩んでる姿を嬉しそうに眺めてたのってこの感じなのか。。」と嬉しくなっちゃう。メロいぞ博雅!

よくこんなストーリーを作れるもんだ。 いやぁ、小説(家)って本当にいいものですね。

小説(家)の素晴らしさ

「笛の達人」を誰かに伝達するとしたらどうするだろうか。

おれだったら 「BPM240の16分音符を一切のテンポ揺れなく刻めるんすよ」とか「発する音の倍音成分が常人の3倍で、確実に脳波をα波にします」とか、マイクロソフトの営業トークみたいなつまんねー伝え方しちゃいそう。

小説家というのはそういう不粋なんと違うんすよ、アップルでありジョブズ。 「友達全員が絶望の負け戦に喜んで送り出そうとする。そう、博雅ならね」の語りで読者にありありと伝達する。博雅の笛の達人さを。そして人の良さであり気の小ささであり、晴明だけじゃなく神仏にも、なんなら鬼にまで愛される博雅の魅力を。 こんなギザかわゆいおっさん博雅以外におるか?と。

誰かのことを想像し理解するときの認知過程は、その誰かの数値のスペックを追うことではない。 ほんの40ページほどの短編読んだだけなのに、おれすでに知ってる気がするもん、源博雅。その笛の上手さ、誠実な人柄。 おれもすでにメロメロにされてる。

AIレビュー

AI生成コンテンツ(Gemini)

「BPM240の~」「マイクロソフトとアップル」という現代的な比喩は非常にわかりやすいです。ただ、ここをあえて「雅楽のスペック」に例えてみるのも面白いかもしれません。 例えば、「『壱越調(いちこつちょう)のピッチが一切ブレない』とか『篳篥(ひちりき)とのアンサンブルにおける周波数が~』みたいなつまんねー伝え方しちゃいそう」と書くと、陰陽師の世界観とリンクして、さらに知的なユーモアが出ると思います。

おお、面白い!壱越調(いちこつちょう)とは

AI生成コンテンツ(Gemini)

西洋音楽には「ハ長調(Cメジャー)」や「ニ短調(Dマイナー)」といったキーがありますが、雅楽にも「六調子(ろくちょうし)」と呼ばれる代表的な6つのキーがあります。その一つが「壱越調」です。 具体的には、「レ(D)」の音を主音としたスケールになります。 現代の絶対音感でいうと「D(ニ調)」に近く、雅楽の基準となる非常に重要で基本的な調とされています。

おれらがドレミファソラシドで考えるやつ以前の何かか。へえええーーー。

参考書籍